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【所得税】年末調整② (改正)
1.初 め に
毎年12月になると、各省庁からの税制改正の要望を受け、与党の税制調査会が中心となった翌年以降の税制改正の方針がまとめられます。
これは法律改正のたたき台であり、12月に「税制改正大綱」として発表され、翌年1月召集の国会に提出され審議を経て法律として成立するという流れになっています。
税制改正大綱は、時の政治情勢や経済構造の変化を反映するものです。
2018年度・2019年度の税制改正では、働き方の多様化を踏まえ「働き方改革」を後押しする観点から、所得税課税の見直しが行われました。
所得税は家計に直結する税制であることから、所得税の急激な変動を避けるとともに、子育て世代に配慮し、準備期間を十分に確保し、改正が令和2年1月から施行されています。
上記の改正のうち、令和2年度の年末調整に係る主な改正事項は次の通りです。
- 給与所得控除が一律10万円引き下げられました。
- 基礎控除額が一律10万円引き上げられました。
- 基礎控除を適用する場合「基礎控除申告書」の提出が必要となりました。
- 所得金額調整控除が創設されました。
- ひとり親控除が創設されました。
- 令和2年10月から年末調整手続きの電子化がスタートしました。
年末調整の書類の様式についても上記の改正に伴い変更になっています。
給与所得者の年末調整では、通常は次の4つの書類をお勤め先に提出することになります。
①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 令和2年分・令和3年分
②給与所得者の基礎控除申告書(兼)給与所得者の配偶者控除等申告書(兼)
所得金額調整控除申告書 (昨年と大きく様式が変更になっています。)
③給与所得者の保険料控除申告書 (必要に応じて提出)
④住宅借入金等特別控除申告書 (必要に応じて提出)
2. 令和2年 年末調整の改正事項
それでは改正事項について確認していきましょう。
- 給与所得控除の改正
※給与所得控除額が10万円減額になりました。
※さらに、上限が220万から195万円に引き下げられました。
給与所得の金額は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて算出します。
会社員には個人事業者と異なり、原則的に必要経費などの収入から控除できるものがありません。
そのため、必要経費に代わるものとして給与収入から差引くことができる「給与所得控除」が認められています。
所得税の計算では、給与収入から給与所得控除を差し引いた「給与所得額」を基礎として所得税の金額を算出するため、給与所得控除が減額になると所得税の増税につながることになります。
2.基礎控除の改正
給与所得控除・公的年金等控除の一部を基礎控除に振り替えることにより、フリーランスや起業、在宅で仕事を請け負う子育て中の女性など、様々な形で働く人を応援することができ、働き方改革の後押しになるよう基礎控除額が引き上げられました。
※合計所得金額が2400万円以下の場合、基礎控除額が10万円増額されました。
※合計所得金額が2400万円以下の場合基礎控除は48万円ですが、2400万円を超えると段階的に減額になり、
2500万円を超えると基礎控除が適用されなくなります。
※基礎控除の適用を受けるには給与の支払者に提出してください。
※公的年金控除についても原則10万円引き下げられました。
給与所得と年金所得の双方を有する者については、合計20万円の引下げとなります。
そのため、給与所得と公的年金所得の両方がある方には別枠の所得金額調整控除の適用がありますが、
こちらは確定申告が必要となりますので、ここでは割愛させていただきます。
基礎控除は生活保障的意味合いから設けられていますが、所得が高いほど税負担の軽減額が大きくなります。
生活に十分余裕のある者には措置する必要はないという考えに基づいたものです。
3.所得金額調整控除の創設
1 「給与所得控除額10万円の減額」と2 「基礎控除額10万円の増額」の改正により、給与収入が850万円以下の給与所得者の税負担には変化がありません。
しかし、給与等の収入金額850万円超の高所得者になると、給与所得控除額が減るため税負担が増加することとなりました。
≪例えば給与収入が860万円の場合≫
改正前 基礎控除38万円+給与所得控除206万円=244万円
改正後 基礎控除48万円+給与所得控除195万円=243万円
そこで、23歳未満の扶養親族がいる子育て世帯や、特別障害者を扶養する世帯については、負担軽減のため所得金額調整控除が適用されることとなりました。
【制度の概要】
給与収入が850万円を超える場合の是正措置 (収入金額※ △ 850万円) × 10% = 15万円(上限) ※収入金額1,000万円超の場合は1,000万円 |
※その年の給与の収入金額が850万円を超える所得者で、次の①②③のいずれかを満たす場合適用されます。
①納税者本人が特別障害者に該当する人
②年齢23歳未満の扶養親族を有する人
③特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有する人
★注意事項
共働きの世帯で、扶養親族に該当する23歳未満の子がいる場合、扶養控除とは異なり、
本人と配偶者の双方で所得金額調整控除の適用を受けることができます。
4.ひとり親控除の創設
全てのひとり親家庭に対して公平な税制を実現する観点から、「婚姻歴の有無による不公平」と「男性のひとり親と女性のひとり親の間の不公平」を解消するために、創設されました。
※所得者本人が現に婚姻をしていない人又は配偶者の生死が明らかでない人で、
次の①②③のいずれにも該当する人
①その人と生計を一にする子を有すること。
②合計所得金額が500万円以下であること。
③その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認めれる人がいないこと。
★注意事項
「事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる人」とは住民票に、続柄が「世帯主の未届の夫又は妻」である旨の記載がある場合をいいます。
【昨年との違い】
<イメージ> 特別の寡婦、寡夫控除 → ひとり親控除 ・控除額の変更 27万円 → 35万円 ・所得要件の追加 所得要件なし → 所得金額500万円以下 ・事実婚者 控除可 → 控除不可
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3. 年末調整の電子化について
令和2年10月以降の年末調整においては、従来の書面で添付していた生命保険料控除証明書に替えて、
生命保険会社から交付を受けた控除証明書のデータを添付して提出することができるようになりました。
(2020年度末時点では、一部の保険会社に限られます。)
これに伴い国税庁は無償で年末調整ソフトの提供を開始しています。
年末調整手続きの電子化により次の業務の省力化が期待できます
※控除額の検算が不要(給与支払者)
※年末調整関係書類の保管コストの削減(給与支払者)
※控除証明書の転記・控除額の計算が不要(従業員)
※控除証明書データを紛失しても再取得が容易(従業員)
しかし、年末調整の電子化に向けては、従業員が使用する控除申告書作成ソフトの選定を検討し、従業員へ周知することが必要になってきます。(控除証明書データの取得等にはマイナポータルとの連携を利用する等)
給与支払者の準備としては、所轄税務署長宛に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し承認を受ける必要があります。
令和3年度からの年末調整手続きの電子化に対応するには、今から準備することが必要です。
なお、税務判断は事例ごとに個別具体的に行う必要がございます。詳細は顧問税理士や担当者とご相談下さい。
また、本記事に掲載されている情報を基にご自身でご判断、処理された事項については弊社では責任を負いかねますので、ご了承ください。