あおばstudy
【法人税】圧縮記帳について
「持ち家は負債だ」金持ち父さん貧乏父さんの著者であるロバートキヨサキ氏は資産を「あなたのポケットに
お金をいれてくれる」ものと定義しています。
この定義に当てはめると持ち家は住宅ローンの返済、修繕費という形でお金を奪っていくため、
「持ち家は負債」という結論に辿り着きます。
圧縮記帳の話をする前に念頭において欲しい前提があります。会社の貸借対照表に載っている土地、
建物、車両、備品などの資産は「やがて費用になるもの」と考えて下さい。
これらの資産は売上に貢献するため、「資産は費用だよ」と考えることに抵抗があるかとは思いますが・・・。
【1】圧縮記帳とは
- 課税されると困る事態
- 課税したくない利益
- 圧縮記帳は課税の繰延べ措置
【2】会計処理(仕訳)
- 補助金など入金時
- 固定資産の購入時
- 決算時
- 資産滅失時
- 資産売却時
【3】積立金方式
【4】消費税
1. 圧縮記帳とは
圧縮記帳の物語はまず利益が生まれるところから始まります。
利益は課税される運命から通常逃れることはできません。しかし、あらゆる事情で課税をされると困る事態が
生じます。
そこで、その利益と相殺できる損失を作り、課税を回避させる方法を作りました。この損失が圧縮損であり、
この回避させる方法を圧縮記帳といいます。(後で説明しますが、課税の回避は単年度だけです)
1. 課税されると困る事態
課税されても困らないケースを考えると、困るケースがすっきりします。
①利益がお金として現金で残っているケース
②利益がないケース
この二つのケースは困りません。①のケースは税金が課税されても現金で支払えば済む話ですし、
②のケースは利益がないので、税金がかからないからです。そして通常はこの2つのケースの間にいます。
困るのは利益が現金で残っていないのに課税されるケースです。稼いだ現金をすべて建物や土地の購入に充てた
場合、納税資金がなく困ってしまいます。
困るケースは他にも、稼いだお金をすべて貸してしまったとか、投資有価証券に換えてしまったとか、売掛金と
なっておりまだ回収できていない、などのケースがありますが、これは企業努力で回避できたでしょうから
救済措置はありません。
ここで、建物や土地の購入も同じでしょ?と思った方、その通りです。通常、建物や土地も企業が計画的に購入
します。課税済利益の蓄えや借入金を活用し、困る事態を避けるはずです。
圧縮記帳は利益が生まれるところから始まる、この言葉を思い出して下さい。
2. 課税したくない利益
課税したくない利益には次のものがあります。
①固定資産の取得又は改良に充てるための国庫補助金等の交付を受ける場合の利益
②所有固定資産の滅失又は損壊により保険金等の支払いを受ける場合の利益
③交換により生じた差益金
④土地収用法等の規定に基づき収用等され、補償金等を取得する場合の利益
⑤特定資産の買換えにより生じた譲渡益
など・・・この他にもありますが、マニアックなので割愛します。
1の国庫補助金を例に挙げると、国がわざわざ補助金を出して、取得することを応援しているのにその補助金に
課税すると課税分の資金が足らず取得できなくなり、交付目的を阻害してしまいます。このような事態を避ける
ため、圧縮記帳を行うのです。
ちなみに①-③は法人税法に規定され、④-⑤は措置法で規定されています。何か違うの?と思われるかも
しれませんが、ほとんど変わりません。圧縮損の計算方法や特別償却の適用を受けられるかどうかが
変わります。
法人税法の圧縮記帳は特別償却の適用も受けることができます。
3. 圧縮記帳は課税の繰延べ措置
今までのことをまとめると
国庫補助金などを受け取るとその受け取ったお金は益金として課税がされるため、補助金などを固定資産の購入
に全額充てると納税資金が不足してしまうことになります。この事態を避ける方法として圧縮損という損金を
作ることを認めており、この処理を圧縮記帳といいます。
つまり、補助金などを貰っておいて固定資産を取得しなかった場合や、そもそも補助金などを貰っていない
場合は圧縮記帳の論点になりません。(固定資産を後日取得する予定のときは「特別勘定の設定」という処理を
行いますが、ここでは割愛します。)
そして、課税を逃れたという表現をしましたが、実は完璧には逃れていません。逃れたのは固定資産を購入した
期だけで、逃してもらった利益はいつか課税されます。
これを課税の繰延べといいます。いつか課税されるなら、繰り延べても意味がなさそうに見えますが、購入した
固定資産が稼働して売上に貢献するようになると納税資金を生み出してくれるのでキャッシュを生み出す
時間稼ぎをするという意味で課税の繰延べは有用です。また、未来は何があるか分かりません。
単純な例として、1,000万円の土地を補助金300万円貰って購入し、その後その土地を1,200万円で売却したと
想定してみましょう。そして、その中途で何らかのトラブルが発生し、赤字になってしまったとします。
4年間の合計の利益はどちらも700万円ですが、圧縮記帳の方は課税済み利益が300万円少なくなっています。
青色欠損金は未来の利益と相殺されますが、相殺できる期限が決められています。期限までに使えなかった
場合は利益と相殺できる機会を失い300万円に課税されている税金分を取り戻せなくなります。
課税の繰延べの有用性が分かって頂けたでしょうか。
2. 会計処理(仕訳)
ここでは国庫補助金等に対する圧縮記帳を例に挙げて会計処理を見ていきましょう。
基本的な取引の流れは次の通りです。
1. 補助金など入金時
(現金預金) ××× (国庫補助金等受贈益) ×××
補助金の返還不要が確定していないときは仮受金としておき、確定したときに利益に計上します。消費税は
不課税取引になります。
2. 固定資産の購入時
(固定資産) ××× (現金預金) ×××
固定資産が土地であれば非課税仕入れ、それ以外であれば課税仕入れとなります。
3. 決算時
直接減額方式
(固定資産圧縮損) ××× (固定資産) ×××
積立金方式
(繰越剰余金) ××× (固定資産圧縮積立金) ×××
どちらの方式であっても消費税は不課税取引になります。
4. 資産滅失時
直接減額方式
(固定資産除却損)××× (固定資産)×××(減額後の金額)
積立金方式
(固定資産除却損) ××× (固定資産)×××(減額前の金額)
(固定資産圧縮積立金) ××× (繰越剰余金) ×××
どちらの方式であっても消費税は不課税取引になります。
5. 資産売却時
方式共通仕訳
①(現金預金) ××× (固定資産売却益・損) ×××
土地は非課税売上、それ以外は課税売上となります。
直接減額方式
②(固定資産売却益・損)××× (固定資産)×××(減額後の金額)
積立金方式
③(固定資産売却益・損) ××× (固定資産)×××(減額前の金額)
④(固定資産圧縮積立金) ××× (繰越剰余金) ×××
どちらの方式であっても消費税は不課税取引になります。
税効果会計を使っている方で積立金方式を選択する場合は圧縮額に法定実効税率を乗じた金額を繰延税金負債
として計上する必要がありますが、ここでは割愛しております。
また、積立金方式は利益剰余金を加減算しますので、一見株主総会の決議事項に含まれそうですが、
会社計算規則153条2項にて不要であると規定されています。株主総会の決議を省略できますので、
実務上は決算手続きに含めて処理することになります。
3. 積立金方式
さらっと直接減額方式とか積立金方式という仕訳を記載しましたが、改めて説明します。
次の文章は法人税法42条の条文です。国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入について書いて
あります。読み飛ばして大丈夫です。
「経理したときは」と書かれているのが見えますか?これはつまり、補助金を貰い、それを使って固定資産を
購入するだけではなく、圧縮記帳を使います、と意思表示することが必要だということです。意思表示は
直接減額方式(帳簿価額を損金経理により減額する方法)か積立金方式(確定した決算において積立金として
積み立てる方法)で経理することによって示します。
方式の違いは損益計算書と貸借対照表どちらにも影響がありますが、下の図は貸借対照表を取り上げています。
分かりやすいよう極端な例示にしています。補助金900万円で土地1,000万円を購入したと仮定した例示です。
土地はやがて費用となるものと考えると左の貸借対照表は正しい会社の姿を表現できています。
あと費用にできるのは100万円だからです。しかし、会社の持つ土地の価値を正しく表現できているのは右の
貸借対照表です。
この土地は1,000万円前後の値段で売却できるからです。単年でリセットされてしまう損益計算書とは違い、
貸借対照表は常に残り続けます。会社の本当の姿を把握しておきたいときに積立金方式は有用です。
逆に補助金による利益が圧縮損によって相殺される直接減額方式は、単年度の正確な利益を把握するという
意味で有用です。
どちらを選ぶかは会社の選択に委ねられています。
4. 消費税
圧縮記帳とは論点がずれますが、「圧縮記帳 消費税」というワードで検索されることが多いため、
取り上げておきます。
なお、各時点の消費税の課税区分は会計処理(仕訳)の章に記載しております。
補助金を貰って固定資産を購入した後、補助金交付先から消費税分の返還をしてくれと連絡があり、
慌てるケースがあります。
上の図は550万円の機械を購入し、110万円の補助金を受け入れていると仮定したときの図です。補助金の
受入について消費税は課税されませんが、機械を購入した時に払う消費税は仕入税額控除の適用を受けるため、
50万円を消費税の納付額から引くことが出来ます。
消費税を納めていない事業者(免税事業者)や売上高から消費税を計算している事業者(簡易課税事業者)は
仕入税額控除を受ける事ができませんので、消費税分多く貰える事業者と貰えない事業者の二通りの事業者が
存在することになり不公平となってしまいます。
なので、後から返還してくれと言われる事態が発生します。
ただし、あまりに返還の報告が漏れるため、最近は消費税を減額した補助金を申請することが多く
なっています。
ものづくり補助金などは消費税を減額して申請します。後から返還を要求される事は少なくなっているかと
思いますが、逆に、免税事業者の方や簡易課税事業者の方が誤って消費税分を減額して申請してしまうことも
あるかと思います。
念のため交付要綱を確認されることをお勧めします。
こちらの記事が少しでもお役に立つことができれば幸いです。
なお、税務判断は事例ごとに個別具体的に行う必要がございます。詳細は顧問税理士や担当者とご相談下さい。
また、本記事に掲載されている情報を基にご自身でご判断、処理された事項については弊社では責任を負いかねますので、ご了承くださいませ。